2007年06月24日

探索手記 -七日目-

 子供が大切そうに抱えていた本は、守護者と呼ばれる者達の物語の一つだった。
 守護者──誰しもが彼らのいずれかの加護を受けているという。私が探索者管理局での試験で告げられた名前は、「英雄オリフェンドール」だった。
 剣を持ち、勇敢な女性。英雄は大抵の場合男性として描かれるのだが、ここでは女性らしい。その英雄が、女神達に助けられて魔王を倒す物語なんだそうだ。
 勧善懲悪の物語はどこにでもある。これもその一つなのだろうと楽しげに語る子供に相槌を打ちながら聞いていたが、気になる言葉が一つあった。

「・・・物語はいくつもあるけど、守護者様の登場する順番は決まってるんだよ?英雄は絶対最初に出てくるし、熱血野郎や幸星様は物語の途中で出てくるの」
「・・・でも聖人さんだけはいつも物語に入ってこないで物語の書き手とか読み手。他の六人をただ見てるだけみたいなー・・・」

 これらはあくまで物語の話でしかない。
 しかし、遺跡探索においてはどのような話であっても心に止めておく必要がある。どこで何がヒントになるか解らないからだ。
 守護者の登場する順番は決まっている──もし遺跡内で守護者に関わる事柄があったならば、これがヒントになる可能性は無いとは言えないだろう。
 少年が去った後、暫くの間その物語を反芻するよう何度も思い浮かべた。

 ──聖人は傍観者。
 それはつまり、この遺跡の招待者のポジションだろうか。彼も招待状を配るだけで何かをする気配は(今の所だが)無い。
 ならば私やトライアド・チェインのメンバー、そして他の探索者達はその物語の登場人物となるだろう。
 英雄──魔王を倒すに至る者がこの中にいる、と考えると面白い。果たしてそれは誰なのか。
 少なくとも、私ではないだろう。私はそれよりも『聖人』の正体を暴く事が大事だからだ。
 この物語と遺跡探索を単純に繋いで考えるのはまずいかもしれないが、思索という形ならば問題ないだろう。暫くは思索のネタに困る事はなさそうだ。


 夢は未だ続いている。
 眠りについて暫くすると赤い月の輝く夜の夢を見るのだ。
 夢だと自覚しているにも関らず、自分の意志では醒める事が出来ない。
 そして明晰夢であればある程度のコントロールは出来るはずだが、コントロールは出来た試しが無い。
 夢の中の私は、動かぬ者達の中をゆっくりと歩いている。
 何かを探すでもなく、何かを求めるでもなく、ただ幽鬼のようにゆらゆらと。
 そして私の傍には二つの人影。──人ではないかもしれないが、それらがある。彼らとは反目してはいないようだ。
 夢が何を示すのか、相変わらず私は理解が出来ない。
 今出来るのは、夢に取り込まれないよう自分の意識をしっかりと持つ事だけだ。
 万一夢に取り込まれる事があれば、それはもう私ではない。ただの「血に飢えたモノ」となるのだから。
posted by Altair at 22:57| Comment(0) | 探索手記
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