嫌悪感しか生まない外見の小動物──金属のような外皮からすると動物ではないかもしれないが──が三匹、私達の目の前にいる。
この影…偽妖精とは以前の遺跡でも戦っている。どうやら生態系は同じらしい。
という事は、すばしっこく触手を伸ばして動きを封じようとする習性も同じだろう。兎に角まずは1匹、数を減らす事から考えないといけないようだ。
巨大な岩であったり、雷撃であったり、そういった術が使えた以前であればこの程度は簡単に落とす事が出来ただろう。
しかし、今の私にはマジックミサイルと再習得したばかりのマジックナイフしか無い。どちらも威力は心許ないもので、苦戦は必至だ。
……せめてもの救いは、偽妖精に隠れて佇んでいる野兎の存在か。可愛い。とても和む。
しかしその野兎も相手にしなければいけないとは…つくづく探索者というものは因果なものだと思う。こんなに可愛いのに。
戦闘そのものは存外上手く流れた。
序盤こそ攻撃が外れたものの、私達の攻撃は羽などの機動性を重視する場所に当たり、有利に進める事が出来たのだ。
最後の最後、偽妖精が倒れ際に放った触手の一撃によって私は昏倒したが、その後動く者は居なかったようだ。
つまり、私達の勝利。苦戦は必至だと思っていたが、どうにかなった。その分二番隊が崩れてしまったようだけど…
これについても今後話し合わなければいけないだろうか。
それはさておき。
術が使えないのは私だけではないようで、他の人たちにも力の減衰があるようだった。
『酒場』の一角、隅にある静かなテーブルで話をした相手──ユウ・ヤトシロさんもどうやらそのようで、以前はきっちりと扱えていた筈の武器が全く扱えなくなったという。
それ故に飛び道具の基本である弓矢・吹矢から学びなおしているそうだが、その状況は丁度今の私と同じだった。
光霊術を扱うために光霊との親和性を高め、そして短剣術を扱うために短剣戦闘の訓練を行う。
怪我の影響で術を扱うだけの力が失せたのだとばかり思っていたが、そうではないらしい。何らかの力によって干渉されている。
この干渉を解かない限り、どんな者でも本来の実力を発揮する事は出来ないだろう。
それにしても、これだけの人数に干渉する力とはどのようなものだろうか。
「招待者」の仕掛けか、あるいはこの島そのものの仕掛けなのか。
まったくもって、謎は尽きない。飽きる暇などなさそうだ。
(外が騒がしいようだ)
「怪我の度合いは二番隊が一番酷いようですね」
「俺は良い。他の二名の治療を優先してくれ」
「ではアルクは俺が診よう。フォウト、すまんが傷薬を頼む。アルテイシアは水を」
「ごめんなさい、おねがいします」
「了解しました。ですがその前にエニシダさんも治療をしなくてはいけません」
「何大袈裟な事言うてんねん。こんなんツバつけときゃ治るやろ」
「エニシダさんとは貴方とは違います、貴方とは」
「酷い言い様やで……アルク、水飲むか水」
「あ、はい!のみます!お水ください!」
「へいよ、待っときや…っとお!?」
「ああっ!ケイロンさんから煙が!?」
「…何とかしないといけませんねー」
「アーヴィンさん!お願いですから大人しくしていてください…」
「…わーった、わーった。しゃーないな…俺も怪我人やっちゅーねん……」
「あはは、酷い言われようだね?」
「なあ。そう思うやろ?ツバつけときゃ治るのは俺だけや言うんやで」
「……ごめん、同意だわ」
「怒るで、しかし……」