私がケイロンさんと生活していた孤島に瓶入りの招待状が届いたのは数日前。しっかりと私達二人の分が入っていたあたり、差出人はやはり只者ではないようだ。
簡単な転移魔法を用いて近場の港へと移動し、そして私とケイロンさんは船に乗って招待状に記された島へとやって来た。
遺跡からの脱出時に負った傷は既に完治しているが、その際に受けたダメージなのか或いは他の作用なのか、ライトニングブラスト等の遺跡で使用する事が出来た魔法はマジックミサイルを除いて全て使えなくなっていた。
だが、魔術的な要素というのはそう簡単に変わりはしない。訓練次第で再び使えるようになるだろう。
船を降りると、そこは既に探索者でごった返していた。
船員の話によれば探索者管理局の出張所が港の傍に作られているらしく、この混雑は出張所での登録待ちに因る物なのだそうだ。
人混みの中に見知った顔が数人居る。彼らも再びこの遺跡で探索するのだろう。
そういえば、「酒場」のオーナーからも便りが届いていた。店舗自体にガタが来ていたらしく、一から建て直したとの事。
相変わらずあの人は何を考えているのか解らない。そもそも会った事の無い者に店を任せるあたり、常識外れもいい所だ。
探索者登録を終え、受取った識別番号は「93」。混雑していると思っていたが、それでも私は早い方だったらしい。
暫く時間を潰してから探索者一覧を見る。何時の間にか姿を消していたケイロンさんも登録を終えていた。その他、見知った名前もちらほらと。
以前、自分たちを「鎖」と称して互いに運命を預けあった者達の名前も、一人を除いて見る事が出来た。
遺跡探索に於いて私達はスリーマンセルが動きやすい。このままであれば一人の欠員が出る…そもそも彼らと組むという事自体決まっていないが、もしそうなった場合この欠員をどうにかして埋めなければいけない。
──唐突に、欠員の補充候補に思い当たった。
ケイロンさんは一人で探索していたと言っていた。
事情があって一人なのであれば無理にとは言えないが、話してみる価値はあるだろう。
ケイロンさんを探さなければいけない。恐らく近くに居るはずだ。
散歩を兼ねて「遺跡外」を歩く。
まだ露店の数は少ないが、あちらこちらに同行者募集の張り紙がされていた。未知の遺跡に挑むのだ。同行者は吟味するべきだろう。
それらを横目に見ながらケイロンさんを探していると、一つの羊皮紙が目に入った。
何も書かれていない、まっさらな羊皮紙。良く見ると、隅に何かが書いてあった。
『鷲の翼 鮫の牙 豹の脚 丘の上、かつて祈り捧げし地にて』
この符丁は私──私達向けのもの。来ている者は集合し、そして意志ある者は命を預けあおうという事だ。
『丘の上、嘗て祈り捧げし地にて』というのは恐らく集合場所だ。丘の上に朽ちた教会のようなものがあるのだろう。ああいう場所はあまり好きではないのだが、しかし目印としては相応しい。
皆と合流する為に、まずケイロンさんを探し出さなければ。そして同行の意志を得られたならば、『嘗て祈り捧げし地』へと向かおうと思う。
再び三合の鎖で互いを繋ぎ、そしてこの遺跡を探索する為に。
2007年05月15日
探索手記 -一日目-
posted by Altair at 17:58| Comment(0)
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