2007年03月25日

探索手記 -十九日目-

私達と対峙した2匹の「山岳地帯に棲む者」は、地下一階で遭遇したそれらよりも遥かに強い威圧感を持っていた。
不敵な笑みを浮かべている、西方に伝えられる「かぼちゃの頭を持った魂」ジャック・オー・ランタン。
そして、定まった形を持っていない──或いは、今の私達相手にはその形すら示す必要が無い──「精霊」スカイスピリット。
前者はデータが揃っており、まだ御しやすい相手だ。しかし後者については一戦しかデータが無く、そのデータも私達には有利に働きそうにない。
その相手に対し、私達が取った作戦は、「強い相手から先に落とす」というものだった。
だが、戦闘が始まるとあらゆる面でその作戦が甘かった事を思い知らされた。

私が持っている魔法の中でも上位の威力を持っているレイ、そしてそのさらに上位にあたるフォトンスティング。
それらをもってしても、スカイスピリットには大きなダメージを与える事はできず、僅かに掠める程度が精々だったのだ。
他の二人も同様だったようで、物理攻撃主体の二人はつかみ所の無い相手に狙いをつける事すらままならず、文字通りの苦戦を強いられた。
スカイスピリットの攻撃は当初の目論見よりも遥かに強く、探索者の最上位クラスの魔術師がようやく修得した魔法に匹敵していた。
離れた所からも視認できる程の極地吹雪を起こす事が可能なのだから、それはある意味で当然の事だったのだろう。
その強力な冷気は、私達の戦闘能力を凄まじい速さで奪って行った。
指輪を嵌めた右腕が凍結して動かす事が出来ない。
少しでも冷気を避ける為に移動しようにも、重度の凍傷に冒された足が言う事を聞く筈もない。
身体を凍結させる程の冷気は、やがて物理的に身体を刻む刃となって私の身体を襲い始める。
その冷気に対し、私はなす術も無く倒れ伏すしかできず、意識を失った。

私が意識を取り戻した時には外は暗く、そしてあたりを見回すとそこは遺跡外だった。
寝かされていた私の視界に他のメンバーは居らず、傍には白い虎が番をするように眠っていた。
「白虎」に知り合いは居るが、確か彼はサーベルタイガーに類する者だった筈。しかし、眠っている虎はその特徴である鋭く大きな牙を持っていない。
確かめようと身体を起こそうとしたが、凍結していた右腕が強く痛み、声を挙げてしまった。
その声に目を醒ましたのだろう。白虎がゆっくりと目を開けて、私の方を見た。

「目を醒ましたか…まだ動くな。その腕は完全に治ってはいない」

流暢な共通語を話す「虎」は、私が意識を失って再び取り戻すまでの間の事をゆっくりと語った。

意識を失い倒れ伏した私を彼が──彼女かもしれないけれど──二番隊の居る所まで送り届けた。
彼の大切な子を三番隊の一人が戦いの最中に庇った事が解り、それによって彼が私達に同行する事になった。
他の八人には命に別状があるほどの怪我は無く、私の傷が一番重く普通であれば死に至っていた。
他メンバーは既に次の探索の準備を始めており、私が目を醒まし次第連絡をする。

最後の一つが疑問だった。
全員が念話の類が使えるのならばまだしも、それを扱える者は居なかった筈だ。
それを問うと、彼は笑うように喉を鳴らしてから「目を閉じていろ」と言い、私に背を向けた。
言われた通りに目を閉じた後、一瞬の閃光が目蓋を焼く。

山岳地帯に現れる人語を会する白虎は、光属性の魔法を得意とする──その情報をにわかに思い出した。
彼はその「山岳地帯に現れる人語を会する白虎」なのだろう。私と同様の魔法を扱い、そして自然という教師相手に鍛えた実戦技術を持つ彼は、魔法であるフラッシュを伝達手段として使う事にしていたようだ。
創意工夫は人の特権だというが、この遺跡に於いてはそれは当てはまらない。
一定以上の知能を持つ者が動植物問わず居るのだ。そして彼らは創意工夫の名のもとに様々な技を使いこなす。
この閃光による伝達もその一つだろう。私が彼から学ぶ事も多そうだ。

彼が閃光を放って暫くの後、他のメンバーが戻ってくる足音が聞こえ始めた。
posted by Altair at 09:35| Comment(0) | 探索手記 -第一回探索-
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